永井荷風の言葉に、
「坂は即ち平地に生じた波瀾である」とあります。
人にとって、最大の波瀾ともいうべき生死、
その境目は、古事記では「黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)」という坂です。
このように、死者の国と生者の国との断絶の象徴である「坂」は、
サカイ、つまり「境」と同じ語源を持つのだそうです。
東京には数多くの坂があります。
街並みは変わり続け、舗装されたり、階段に姿を変えても、
坂の地形そのものは、古くより大きく変わっていません。
無表情なアスファルトの下には、
無数の人々の足跡が踏み固められています。
そしてそこには、「境」を超えて、違った世界へ行くという、
ある特別な感覚が、深く染みついているのだと思います。
私と、あらゆるものとを隔てる境目にて。
At the boundary line which separates me from everything.